【感想・あらすじ】映画『劇場』で、不器用で"愚か"な二人が魅せる美しさ

映画公開日と同時にAmazonプライムで配信、という新しい公開スタイルで話題になった『劇場』、遅ればせながらようやく視聴(Amazonプライムにて)しました。

  • 作品情報

「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を、主演・山崎賢人、ヒロイン・松岡茉優行定勲監督のメガホンで映画化。中学からの友人と立ち上げた劇団で脚本家兼演出家を担う永田。しかし、永田の作り上げる前衛的な作風は酷評され、客足も伸びず、ついに劇団員たちも永田を見放し、劇団は解散状態となってしまう。厳しい現実と理想とする演劇のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独と戦っていた。そんなある日、永田は自分と同じスニーカーを履いている沙希を見かけ、彼女に声をかける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の大学に通っている学生だった。こうして2人の恋ははじまり、お金のない永田が沙希の部屋に転がり込む形で2人の生活がスタートする。沙希は自分の夢を重ねるかのように永田を応援し、永田も自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いながら、理想と現実と間を埋めるかのようにますます演劇にのめりこんでいく。

(「映画.comより」)

歪に変わっていく二人の関係

脚本家兼演出家として夢を追い続ける永くん(山崎賢人)と、服飾の学校に通いながら彼の夢を健気に応援し続ける沙希ちゃん(松岡茉優)の恋のお話です。ある日、永くんは街中で出会った沙希ちゃんに突然声をかけました。最初は不審がられるものの、なんだかんだで気が合った二人はゆくゆく付き合うようになり、永くんが沙希ちゃんの家に転がり込む形で、一緒に暮らし始めます。しかし、楽しくて幸せな時間もほんのつかの間、二人の関係は少しずつ歪に変わっていきます。

 

象徴的な永くんのダメ男っぷり

正直、永くんのダメ男っぷりがまあ~~~すごくて、なんで二人が付き合ってるのか、なんで沙希ちゃんが彼のことを甘やかしてしまうのか、最初のうちは全然理解できませんでした。

ほぼ同棲状態なのに「ここ沙希ちゃんの家やし…俺が(光熱費)払うっておかしくない??」って平然と言ってのけたり、沙希ちゃんが男友達から譲り受けた大事なバイクをわざと壊したり、仕事の付き合いの飲み会で子供みたいな態度取ったりと、どこまでもダメ男。ですが、話が進んでいくとだんだん憎めなくなってくるのが永くんの魅力です

 

二人の関係は「共依存

話が進むと、沙希ちゃんは永くんのことを甘やかしてるんじゃなくて、実は彼女は彼女で彼に依存している、ということが分かってきます。つまり二人の関係性は共依存

街で誰かに声をかけられたら必ず立ち止まって話を聴いてあげちゃう沙希ちゃんは、たぶん自分に自信が無くて、誰かに必要とされたい女の子自分という存在が、永くんが帰ってくる安全な場所でありたかったのかな、と思いました。

 

二人の終わりと始まり

いよいよ沙希ちゃんが壊れてしまい、やがて別々に暮らし始めた二人ですが、荷物の整理をするために久々に会いました。迷惑かけたことをようやく謝る永くんと、相も変わらず「永くんは悪くない」と答える沙希ちゃんの姿には心を打たれました。

「演劇だったら何でもできる」とこれから実現させたいことを次々に挙げていく永くんはちょっと痛々しくて、やっぱり憎めないし何だか少しだけ頼もしくも見えました。ラストシーンの演出も最高でしたね。

 不器用で"愚か"な二人が魅せる美しさ

決してキラキラしたストーリーではありませが、二人の不器用なところや愚かなところが不思議と眩しく思える作品でした。

何となく大学まで進学して、特にやりたいことも分からないまま就職した身としては(今はそれなりにやりがいを持って仕事をしていますが)、自分の夢を追いかけるとか、恋人の夢を支えるとか、そんな永くんと沙希ちゃんの姿が清々しく美しくも見えました。

 お互い一緒にいたらまたダメになってしまうのかもしれないですが、沙希ちゃんには永くんの隣でずっと笑っていてほしいなと思いました。二人の幸せを願います。