【感想・あらすじ】本からピアノの音色が伝わってくる、美しく優しい物語『羊と鋼の森』/宮下奈都

第13回本屋大賞第4回ブランチブックアワード大賞2015第13回キノベス!2016 第1位……と、伝説の三冠を達成した羊と鋼の森』/宮下奈都を紹介します。
読んだ後も心地よい余韻にずっと包まれるような、美しく優しい物語でした。

 

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく―。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

(「BOOKデータベース」より)

 「ピアノ」「調律師」との出会い

主人公外村(とむら)は、北海道に住む高校2年生。
日々の生活に特に目的意識を持たずに過ごしていた外村は、ある日学校の先生に頼まれ、体育館で客人を待つことになります。そこに訪れたのが、ピアノの調律師である板鳥(いたどり)という一人の男性。

それまでピアノに興味が無かった、また「チョウリツ」という仕事が何を指すのかをよく分からなかった外村は、板鳥さんがピアノを調律する姿を見て、そして彼が調律したピアノの音色を聴き、その魅力に引き込まれていきます。これが、外村とピアノ、調律師という仕事との出会いでした。
高校卒業後、外村は調律師の専門学校へと進学し、その後は板鳥さんの勤める楽器店に就職することができました。

ピアノを愛する双子の姉妹、先輩や恩師との交流

就職した楽器店で、外村は個性豊かな先輩たちやお客様と出会います。
社交的で面倒見が良く、例え話が好きな柳さん。
一見意地悪に見えるが、ピアノに対する愛と尊敬が人一倍強い秋野さん。
そして何より、外村が調律師を目指すきっかけになった板鳥さん。
楽器店の個性豊かな先輩たち・恩師に支えながら、外村は日々成長していきます。

初めて先輩と調律に向かった先で出会った双子の姉妹、和音と由仁の存在もまた、外村の調律師としての仕事に大きな影響を与えていきます。
それまで何のこだわりもなく生きてきた外村が、自分の仕事にプロ意識とにこだわりを持ち、良い意味で"わがまま"になって成長していく姿には静かな感動を覚えます。

穏やかな物語の中にある、熱い想い

物語は終始穏やかに進んでいきます。ですが、この物語で描かれている外村の誠実さや成長していく姿からは、熱い想いとエネルギーを感じます。
外村は、新人時代からずっと、誰から言われるでもなく毎日事務所で調律の練習を繰り返し、家に帰ったらピアノ曲集を聴き続け、先輩の語る言葉を必ずメモに取り、どんな小さなことでも自分の学びに繋げていきます。
迷いながらも前に進んでいく姿がどこか清々しく、読んだ後は、美しいピアノの音色が頭の中を優しく流れつつ、「自分も明日から頑張ろう」という気持ちになりました。

「何かにチャレンジしたい人」におすすめの一冊

何にもこだわりを持たなかった主人公がピアノに触れ、調律という仕事に出会い、素敵な先輩やお客さんに囲まれ成長していく姿には心を打たれました。音楽をやっている人、何かにチャレンジしたい人におすすめの一冊です。